ブログ

π拡張芳香族ペプチドをもちいた自己修復性超分子ヒドロゲル

Atomic-precision π-driven peptide hydrogel nanofibers with ordered water channels

Ayaka Ueda, George Broutzakis, Alexander Neuhaus, David Ens, Dominik Mählmann, Lisa Schlichter, Hideya Kono, Akiko Yagi, Kazuma Amaike, Christos Gatsogiannis, Bart Jan Ravoo, and Kenichiro Itami

Nature Communications, 2026, 17, 7622.

DOI: 10.1038/s41467-026-75984-9

ペプチドが集合する際には、水素結合に加え、芳香環同士が引き合うπ相互作用が重要な役割を果たします。ペプチドの末端に大きな芳香族分子を導入する方法により、π相互作用を強めて丈夫なヒドロゲルをつくることができますが、ペプチドの末端構造がふさがれてしまうため、末端が本来もつ電荷や水分子との相互作用を十分に利用できないという課題がありました。本研究では、ペプチドの末端構造を残せば、ペプチド末端がもつ水との相互作用と、π拡張芳香族分子が有する強い集合力を同時に生かし、水中で高秩序なナノ構造を形成できるのではないかと考え、新たな分子設計に挑みました。

今回、フェニルアラニンとグルタミンから成るジペプチドに、強いπ相互作用を示す拡張芳香族分子ピレンを側鎖に導入した新しいジペプチドFQ(Pyr)を設計・合成しました。FQ(Pyr)は水溶液の水素イオン指数(pH)を変化により、自発的に集まり、均一ならせん状ナノファイバーを形成しました。これらのナノファイバーが3次元的に絡み合うことで、透明なヒドロゲルが形成されました。また、FQ(Pyr)ヒドロゲルは、外から力を加えて一度壊しても、時間が経つと再び均一なゲル状態に戻る自己修復性を示しました。さらに、クライオ電子顕微鏡(低温電子顕微鏡)を用いて、FQ(Pyr)ナノファイバーの立体構造を1.7オングストロームという原子レベルに迫る分解能で決定しました。これは、合成超分子材料の構造解析としては世界最高水準の精度です。この結果、ペプチド分子が極めて規則正しく積み重なり、ナノファイバーの内部に水分子を含むチャネル構造が形成されていることを発見しました。また、分子の向きがそろって配列することで、ファイバー全体に分極が生じることも明らかになりました。

今回の研究では、ペプチド末端がもつ極性を残したまま、π拡張芳香族分子によって分子同士の相互作用を強めることで、高い秩序と機能をもつヒドロゲルを開発しました。本ヒドロゲルは、生体材料のような柔らかさと、電子的機能を兼ね備えており、新しいソフトマテリアルの創製につながる可能性があります。この設計戦略は、今回の分子に限らず、さまざまなペプチドや芳香族分子へ応用できる可能性があります。また、本研究で明らかになった水チャネル構造や一方向の分極構造は、これまでの柔らかい材料では実現が難しかった機能につながる可能性があります。例えば、水やイオンを選択的に通すナノチャネル材料、圧電性を有するソフトマテリアル、細胞や生体分子と相互作用するバイオマテリアルなどへの展開が期待されます。さらに、本研究は、クライオ電子顕微鏡がタンパク質などの生体分子だけでなく、合成された超分子材料の構造を原子レベルで明らかにする強力な手法となることも示しました。

本研究はミュンスター大学のBart Jan Ravoo教授Christos Gatsogiannis教授との実りある共同研究によって得られた成果です。研究員の上田彩果さんがミュンスター大学に滞在し、現地で研究を進めたことが共同研究発展の大きな契機になりました(ミュンスター大学のプレスリリースへのリンク)。この連携は現在も継続しており、共同研究はさらに多方面へと広がっています。また本研究は、JST 先端国際共同研究推進事業 ASPIREとも深く関連する成果であり、理研とJSTより共同プレスリリースが発表されました(理研/JSTの共同プレスリリースへのリンク)。

イメージ図と紹介動画は理化学研究所 高橋一誠氏により作成

関連記事

  1. Iridium Catalysis for C-H Bond A…
  2. tert-Butoxide-Mediated C-H Bond …
  3. Flexible Reaction Pocket on Bulk…
  4. ニッケル触媒直接カップリング反応の開発と機構解明研究
  5. Recent Progress in Nickel-Cataly…
  6. A General Catalyst for the β-Sel…
  7. The 1,1-Carboboration of Bis(alk…
  8. Controlled Alcohol–Carbonyl Inte…

Twitter@Itamilab

最近の記事

Flickr@Itamilab

天池先輩からコーヒースープ伴夫妻からのお歳暮です!潤さん、宮村さん、ありがとうございます!!武藤さん、ビールありがとうございます!平賀大都わーいやなさん、あつしさん、ありがとうございます!!だいぶ前だけど、Stripes look #ootdHalloween lookラインを洗う時ですら格好良く。戸谷先生教育実習!imageけいしゅう、誕生日おめでとう!誕生日は英吉家!!3年生に名古屋ぼろ勝ちアピール中!!アリシア卒業おめでとう女子会!
PAGE TOP