伊丹分子創造研究室、理化学研究所
自然に感動し、分子を愛し、夢を語る、 有機化学者でありたい
人に感謝される、かけがえのない「ものづくりの匠」でありたい
分子をつなげ価値を生み、人をつなげ輪を生む、 研究室でありたい
これが私たちの思いである
新研究室のスタートに際して(2024年4月1日 伊丹健一郎)
1998年10月に京都大学助手としてアカデミックキャリアをスタートさせてから四半世紀がたちました。2005年2月以降の19年間は名古屋大学で研究グループ・研究室を任せて頂けました。その間、延べ人数として、学部4年生129名、博士前期課程大学院生110名、博士後期課程大学院生52名、海外の大学院生・学部生48名、博士研究員40名、企業研究員15名の研究指導にあたってきました。これまで50名以上のアカデミック人材を輩出できたことは大変幸せなことだと思っています。当然自分一人の力だけではできなく、優秀なスタッフや学生がいたからこそ、これまで研究グループを運営できたと思っています。今後、理化学研究所においては、Molecular Nanocarbon Science 2.0の発信地となる新分子・新機能を開拓する研究室を作り上げるとともに、基礎と応用の両面で今後の科学をリードする人材を育成したいと思っています。研究としては、破格の構造美と機能を併せもつ唯一無二の分子を創造(クリエイト)したいとの想いから、研究室の名称を「伊丹分子創造研究室」とさせて頂きました。
これまで支えて下さった多くの方々への感謝の気持ちを決して忘れません。誠心誠意そして謙虚に研究と教育に取り組んでまいります。
研究室運営について
研究室の数だけ運営の方法や方針がありますが、圧倒的にユニークな研究の強みを基盤としたcuriosity-drivenな研究と大きなビジョンや社会的要請に基づくmission-orientedな研究が、「絶妙のバランス」で相互に密接に連動したとき、研究成果のインパクトと研究室の活性が最大化することをこれまでの経験から学んできました。また、そのような信念で研究室を運営してきました。伊丹研究室においては、主任研究員研究室で新分子の設計・合成・機能開拓に重点を置いた研究体制をとりながら、理研内外の他の研究室、センター、大学さらには企業と垣根のない強力な共同研究ネットワークを構築して、社会課題の解決につながるようなmission-orientedな研究にも参画していきたいと思います。特に、ケミカルバイオロジー、マテリアル科学、理論化学、データサイエンスとのwin-winコラボレーションによって、科学の新潮流が生み出せるものと確信しています。
分野を超えた情熱ある研究は楽しいです。自らが抱いた夢に向かって邁進するうちに研究の幅が広がり、他分野の人や研究手法に助けられることもあれば、何か大きな問題を解決しようとして、分野横断型の研究チームを結成し挑む場合もあります。ときには異分野の研究者間で興味本位の話が盛り上がり、誰も取り組んだことのない研究を開始することもあります。全てこれまでの研究者人生の中で学んだことです。他分野の研究者との情熱あるコラボレーションは、思わぬ発見と創造、新しさ、ユニークさを私の研究に吹き込んでくれました。理化学研究所には極めて広い分野の一流かつユニークな研究者が集結しています。自分自身の化学や分子が異次元の躍動を見せることを楽しみにしています。研究室メンバー全員で未知との遭遇を求めて、全力投球していきたいと思っています。何にも囚われず、心の声に耳を傾け、全情熱をかけること、そして必ずユニークな研究をすることを研究室の目標にしてきたいと思っています。
また、研究における健全性・公正性は最も重要だと認識しています。 私たちは、研究倫理教育と多層的なデータのチェックと保管を徹底し、最高基準の健全性、公正性、厳密性、安全性をもって研究に取り組んでまいります。
人材育成について
講義を通じた教育の重要性はもちろんですが、研究を通じた教育も優秀な人材の育成のためには極めて重要です。研究室においては、将来リーダーシップを発揮できる研究者になるよう、基礎的な化学の考え方、知識、技術の習得はもちろんのこと、ものをみる眼、ものを考える力、などの基礎能力を養える「場」をつくる努力をしてきました。特に、問題点を見抜く力、課題を見つける力、ロジックをつくり伝える力、エッセンスを見抜き伝える力、を養える教育を心掛けてきました。また、研究者として大成するには、一流の研究を自ら経験し、「山の登り方・降り方」を感覚として身につけることが極めて重要です。そのために、常に大きな可能性を秘めた課題をメンバーとともに取り組めるよう、最善の努力をし続けたいと思います。
研究室のリーダーとしては、細かい指示をするのではなく、夢や大きな目標を語り、“Be unique! Go crazy! Be happy!” とメンバーを鼓舞することが最も重要であるという信念でやってきました。自分も含めてメンバー全員が情熱とワクワク感をもって夢中で研究に打ち込める「場」を提供することを心掛けてきました。また、私はメンバーからのクレイジーな研究提案や試みをとにかく褒め、インスパイアすることを最優先にしてきました。と同時に自分がインスパイアされることも楽しんできました。これは今後も変わりません。リーダーや教育者がもつべき「エネルギー」、「決断力」、「情と理」に溢れる存在になれるよう全力を尽くしていきたいと思っています。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの言葉「青年は教えられることより刺激されることを欲するものである。」やウィリアム・アーサー・ウォードの言葉「普通の教師は指示をする。良い教師は説明する。優れた教師は範となる。偉大な教師は心に火をつける。」を座右の銘に、人材の育成に魂を注ぎたいと思います。分野を超えた情熱ある研究の先に、かけがえのない人材は必ず育ちます。