理化学研究所 主任研究員
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) 主任研究者
台湾中央研究院 化学研究所 研究フェロー
概要
1971年生まれ、東京都出身。専門は、有機化学、合成化学、分子ナノカーボン科学、触媒科学、材料科学、ケミカルバイオロジー。
1990年に東京都立国立高等学校を卒業後、京都大学工学部合成化学科に進学し、化学を学んだ。卒業研究では生越久靖教授の指導の下、バイオミメティック化学や生体関連化学を学んだ。1994年に京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻の伊藤嘉彦教授の研究室にて有機金属化学や触媒化学の研究に従事し、1998年に博士号を取得した。この間、1997年から1998年の1年間、スウェーデンのウプサラ大学でJan-E. Bäckvall教授のもとで研究留学をし、触媒的不斉合成を学んだ。
博士号取得後、1998年10月より京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻の吉田潤一教授の研究室の助手に着任し、アカデミックキャリアをスタートさせた。それ以来、美しい構造と特異な性質や機能をもつ分子の開発と、ユニークな触媒を用いた迅速な分子連結法の開発に注力している。助手時代(1998-2005年)には、いくつかの重要な機能性分子のプログラム化学合成や多様性指向型合成のための数多くの新しい方法、触媒、反応剤を開発した。プログラム合成の威力を示すため、一般的な合成法がなかった多置換オレフィンや拡張π電子系を中心に、これらの化合物の多様性指向型合成を実現するとともに、多色蛍光分子や抗がん剤候補分子のライブラリーを構築した。この間に開発された6つの化合物は現在市販されている。
2005年2月には、名古屋大学物質科学研究センターの野依特別研究室の助教授に着任し(2008年6月には名古屋大学大学院理学研究科有機化学研究室の教授に昇進)、以降2024年3月まで19年間名古屋大学を主な研究拠点とした。名古屋大学に移籍後は、「分子ナノカーボン科学」という新分野の開拓に着手した。基礎と応用の両面で重要な構造的に均一なナノカーボン(分子ナノカーボン)のボトムアップ合成により、この分野の進展をリードした。例えば、カーボンナノリング(シクロパラフェニレン)、カーボンナノベルト、ワープドナノグラフェン、オールベンゼン・カテナン、オールベンゼン・トレフォイルノット、インフィニテンなど、化学者にとって長年の夢であった多くの「新しい炭素のカタチ」の合成に成功した。これらの重要な分子は、Chemical & Engineering News(アメリカ化学会)の “Molecule of the Year “に何度か選ばれた。企業との共同研究を通じて、開発した分子ナノカーボンは有機エレクトロニクスやバイオ応用など様々な分野で広く利用されている。今や分子ナノカーボンは、基礎研究・応用の両面で化学の大きな潮流となっている。現在のところ、開発した11種類の分子ナノカーボンが市販されており、さらに多くのナノカーボンが開発中である。キログラム・スケールで生産されている分子もある。
これまで不可能だったこれらの「新しい炭素のカタチ」を合成する際に、「直感的」で「直接的」な化学変換を可能にする多くの新しい化学反応と触媒を開発した。その中には、炭素-水素結合の直接アリール化(C-H活性化)や、芳香族化合物やナノグラフェンの縮環π拡張(APEX)反応などがあり、現在では世界中の研究者が日常的に利用している。すでに9種類の触媒、配位子、反応物質が市販されている。
分子ナノカーボン科学の探求に加え、2012年にトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)を名古屋大学に創設し、10年間(2012年~2022年)設立拠点長を務めた。ITbMは世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の拠点のひとつとなり、異分野の研究者が垣根なく自由に研究できる「Mix-Lab」をコンセプトにITbMを牽引した。「分子で世界を変える」をスローガンに、ITbMにおける合成化学、植物科学、動物科学、理論科学の学際領域の開拓に貢献した。
この間、2013~2020年にはJST-ERATO 伊丹分子ナノカーボンプロジェクトを研究総括として分子ナノカーボン科学にフォーカスした異分野融合研究を実施した。また、2019年8月からは台湾・中央研究院化学研究所の研究フェローとなり、台湾の研究室をハブとした国際的異分野融合研究を進めている。
2024年4月に理化学研究所の主任研究員として着任し、伊丹分子創造研究室を立ち上げた。
学歴・職歴
1990年3月 東京都立国立高等学校 卒業
1994年3月 京都大学工学部合成化学科 卒業(生越久靖教授)
1996年3月 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 修士課程修了(伊藤嘉彦教授)
1998年7月 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 博士課程修了(伊藤嘉彦教授)
1996~1998年 日本学術振興会特別研究員 (DC1)
1997~1998年 スウェーデン・ウプサラ大学/ストックホルム大学 留学(Jan-E. Bäckvall教授)
1998~2005年 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻 助手(吉田潤一教授)
2005~2008年 名古屋大学物質科学国際研究センター 准教授(野依良治特別教授)
2005~2009年 JST さきがけ研究員
2008年~2024年 名古屋大学大学院理学研究科 教授(研究室主宰)
2012年~2022年 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) 拠点長
2012年~現在 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) 主任研究者
2013年~2020年 JST-ERATO 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括
2019年~現在 台湾・中央研究院化学研究所 研究フェロー(研究室主宰)
2024年~現在 理化学研究所 開拓研究本部 主任研究員(研究室主宰)
研究業績
論文・著書 412報
主な論文
Science (4), Nature Chem. (4), Nature Commun. (9), Nature Synth. (1),
Nature Catal. (1), Nature Chem. Biol. (2), Proc. Nat. Acad. Sci. USA (1),
J. Am. Chem. Soc. (58), Angew. Chem. (41), Chem (4), ACS Cent. Sci. (1),
Chem. Sci. (24) [as of December 7th, 2023]
被引用回数 27,000回以上
H-index 89 (Web of Science, ResearcherID: B-5110-2011), 99 (Google Scholar)
特許・特許出願 99件
市販化 22化合物
受賞・栄誉 47件
アカデミック卒業生 52名 (国内35名、海外17名)
基調・招待講演 445回
受賞・栄誉・レクチャーシップ (47件)
2023年 Irvine Organic Synthesis Lecturer, University of California, Irvine, USA
2023年 The Job Lecturer, Memorial University of Newfoundland, Canada
2023年 The Paul G. Gassman Lecturer, University of Minnesota, USA
2022年 Frontiers of EOC Lectureship, Nankai University, China
2022年 The Reuben Benjamin Sandin Lecturer, University of Alberta, Canada
2022年 ChemSoc Lecturer, University of New South Wales (UNSW) Sydney, Australia
2021年 Highly Cited Researchers 2021, Clarivate Analytics
2020年 Highly Cited Researchers 2020, Clarivate Analytics
2019年 Highly Cited Researchers 2019, Clarivate Analytics
2018年 オランダ超分子化学賞 The Netherlands Scholar Award for Supra-molecular Chemistry
2018年 Highly Cited Researchers 2018, Clarivate Analytics
2018年 The Guthikonda Lecturer, Stanford University
2018年 The Roland K. Pettit Centennial Lecturer, University of Texas, Austin, USA
2018年 日本化学会 学術賞
2017年 Highly Cited Researchers 2017, Clarivate Analytics
2017年 ICI Distinguished Lecturer, University of Calgary, Canada
2017年 中日文化賞
2017年 The Bristol-Myers Squibb Lecturer, University of California, Berkeley, USA
2017年 読売テクノフォーラム ゴールドメダル賞
2017年 The SYNLETT Best Paper Award 2016, Thieme
2016年 The Holger Erdtman Lecturer, KTH, Sweden
2016年 永瀬賞
2016年 Treat B. Johnson Lecturer, Yale University, USA
2016年 Ta-Shue Chou Lectureship Award, Academia Sinica, Taiwan
2015年 R. C. Fuson Visiting Professor, University of Illinois at Urbana-Champaign, USA
2015年 アメリカ化学会賞Arthur C. Cope Scholar Award
2015年 スイス化学会レクチャーシップ Swiss Chemical Society Lectureship Award
2014年 Nankai University Lectureship Award, China
2014年 The Aldrich Lectureship Award, Emory University, USA
2014年 日本学術振興会賞
2013年 Novartis Chemistry Lectureship Award
2013年 Mukaiyama Award
2013年 Asian Rising Star Award, Asian Chemical Congress
2012年 英国王立化学協会フェロー Fellow of the Royal Society of Chemistry, UK
2012年 ドイツイノベーションアワード German Innovation Award “Gottfried Wagener Prize”
2012年 Novartis-MIT Lecturer in Organic Chemistry (MIT, USA)
2011年 ACP Lectureship Award, China
2011年 ACP Lectureship Award, Malaysia
2011年 野副記念奨励賞
2011年 Overseas Distinguished Professor of Wuhan University, China
2008年 Merck-Banyu Lectureship Award
2007年 Banyu Young Chemist Award
2006年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2005年 Mitsui Chemicals Catalysis Science Award of Encouragement
2005年 日本化学会 進歩賞
2004年 Thieme Journals Award
2000年 有機合成化学協会 研究企画賞
客員教授・非常勤講師
2007年 九州大学先導物質化学研究所 非常勤講師
2008年 東京工業大学資源化学研究所 非常勤講師
2008年 京都大学大学院理学研究科 非常勤講師
2009年 京都大学化学研究所 客員教授
2011年 中国・武漢大学 海外特別栄誉教授
2012年 大阪大学大学院工学研究科 非常勤講師
2014年 静岡県立大学薬学部 非常勤講師
2013~15年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻 流動講座教授
2015年 千葉大学大学院薬学研究院 非常勤講師
2015年 岡山大学大学院自然科学研究科 非常勤講師
2015年 岐阜薬科大学 非常勤講師
2016年 北海道大学理学研究院 非常勤講師
2018年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 非常勤講師
2020年 信州大学学術研究院農学系 非常勤講師
2020年 千葉大学大学院医学薬学府 非常勤講師
2021年 東京大学卓越大学院 非常勤講師
2025年 関西学院大学 非常勤講師(予定)
学術雑誌の編集長・編集委員・アドバイザリー
2008~2011年 Canadian Journal of Chemistry (Advisory Board)
2011~2017年 Organic & Biomolecular Chemistry, RSC (Editorial Board)
2012~2022年 Beilstein Journal of Organic Chemistry (Associate Editor)
2013~2016年 ChemCatChem (International Advisory Board)
2013年~現在 Bulletin of the Chemical Society of Japan (Senior Editor)
2014~2021年 Chemistry – An Asian Journal (International Advisory Board)
2014年~現在 Advanced Synthesis & Catalysis (Academic Advisory Board)
2015年~現在 The Chemical Record (Editorial Board)
2015年~現在 Tetrahedron/Tetrahedron Letters (Advisory Board)
2016~2018年 Accounts of Chemical Research (Editorial Advisory Board)
2016~2023年 Chem, Cell Press (Editorial Board)
2017~2020年 Angewandte Chemie (International Advisory Board)
2019年~現在 ACS Central Science (Editorial Advisory Board)
2021年~現在 Tetrahedron Chem (Advisory Board)
2022年~現在 Precision Chemistry, ACS (Associate Editor)
学術賞委員長・選考委員
2008~2014年 Yoshimasa Hirata Memorial Lectureship 選考委員
2014年~現在 Hirata Award 選考委員
2017~2019年 Mukaiyama Award 選考委員
2008~2024年 Nagoya Medal Prize of Organic Chemistry 選考委員
2014~2022年 Nagoya Medal Prize of Organic Chemistry 選考委員長・組織委員長
2021年 Tetrahedron Prize 選考委員
主なインタビュー記事・公開講演・動画
上村大輔先生に導かれて (理philosophia)
Chem-Stationスポットライトリサーチ (Chem-Station)
スーパー分子が世界を変える (東進ハイスクール・トップリーダーと学ぶワークショップ)
フロンティアサロン Teacher Introduction (フロンティアサロン財団)
研究者の肖像(テクノロジストマガジン)
フロントランナー挑む(日経サイエンス)
ケムステ第1回バーチャルシンポジウム(YouTube)
化学と工業・論説(何にも囚われない情熱ある研究を!)
Introduction of ITbM (YouTube)
A conversation with Kenichiro Itami (ACS Central Science)
Carbon nanobelt commercialized from TCI (YouTube)
カーボンナノベルトTCIより市販化 (YouTube)
世界初のカーボンナノベルト合成、構造確定の瞬間 (YouTube)
Interview with Stuart L. Schreiber (YouTube)
Interview with Zhaomin Hou (YouTube)
WPIプログラム10周年記念講演会 (YouTube)
WPI Science Talk Live 2013 (YouTube)
MBLA 10th Anniversary Special Lectures (YouTube)
Angewandte Festsymposium (ChemistryViews)
2015 National Organic Chemsitry Symposium (American Chemical Society)
伊丹健一郎教授 ー合成化学はひとつである(Chem-Station)
Author Profile (Angew. Chem. Int. Ed.)