Research

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分子を創造し価値を生む科学

研究の歴史(合成化学を基盤としたスーパー分子創製への道のり)

 分子には科学・技術のあり方を変え、ひいては社会をも変容させる力があります。この地球上には実に多くの問題が存在しますが、それらに対して「分子で答えを出す」ことができると信じています。私の夢は、問題を解決するような画期的な機能をもつ分子や構造的に美しい分子(美しい分子には機能が宿る)を開発し、世に送り出すことです。これまでに開発した23種の分子(分子ナノカーボン、反応剤、触媒、配位子、生物活性分子)が既に市販化され、世界中の研究者が用いています。

 学生時代に京都大学とスウェーデン・ウプサラ大学で有機化学、生体関連化学ならびに有機金属化学、触媒化学、合成化学を学び、その後の分子や合成化学を基盤とした新物質創製研究の基礎を築きました。京都大学助手時代には、様々な分野への波及効果のある多様性指向型合成化学を目指し、新合成方法論の開拓と機能性有機分子の創製に取り組みました。

 33歳の時に研究グループ(当時は野依特別研究室)を率いる機会を名古屋大学に得た際は、標的分子群をさらにインパクトのあるものに設定し、材料科学やケミカルバイオロジーへの波及効果のある合成化学をさらに強力に進めました。特に、有機化学や合成化学を基盤とした「分子ナノカーボン科学」という新領域を開拓しました[1]。カーボンナノリング、カーボンナノベルト、ワープドナノグラフェン、インフィニテンに代表される数多くの「新しい炭素のカタチ」を世に送り出すことができました。アメリカ化学会Chemical & Engineering Newsが選ぶMolecule of the Yearにも何度か選出されました。企業との共同研究によって分子ナノカーボンが有機エレクトロニクスなどの材料科学分野で活躍の場を見せており、分子ナノカーボン科学は今や基礎と応用の両面で化学における一大潮流となりました。

 さらに、分子ナノカーボン科学の推進と並行して、研究者として新たな挑戦をすべく、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)[2]を世界トップレベル研究拠点(WPI)の一つとして立ち上げ(設立拠点長)、合成化学・植物科学・動物科学・理論化学の融合領域を開拓しました。

 2024年4月には、研究の拠点を理化学研究所に移し、分子創造化学の開拓研究をスタートさせました。

これまでの主な研究の概要
今後の研究の方向性

参考論文

  1. Accounts and reviews: (a) Y. Segawa et al., “Structurally uniform and atomically precise carbon nanostructures”. Nature Rev. Mat. 2016, 1, 15002. DOI: 1038/natrevmats.2015.2. (b) K. Itami et al., “Molecular nanocarbon science: present and future”. Nano Lett. 2020, 20, 4718-4720. DOI: 10.1021/acs.nanolett.0c02143. (c) I. A. Stepek et al., “New paradigms in molecular nanocarbon science” Tetrahedron 2022, 123, 132907. DOI: 10.1016/j.tet.2022.132907.
  2. https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/en/

 

市販化された化合物 (22化合物)

[15]Cycloparaphenylene, [15]CPP (Kanto Chemical)
[12]Cycloparaphenylene, [12]CPP (TCI, Kanto Chemical)
[11]Cycloparaphenylene, [11]CPP (TCI)
[10]Cycloparaphenylene, [10]CPP (TCI)
[9]Cycloparaphenylene, [9]CPP (TCI, Kanto Chemical)
[8]Cycloparaphenylene, [8]CPP (TCI)
[7]Cycloparaphenylene, [7]CPP (TCI)
Methylene-bridged [6]cycloparaphenylene, [6]MCPP (TCI)
(6,6)Carbon nanobelt bis(tetrahydrofuran) adduct, (6,6)CNB (TCI)
Warped nanographene, WNG (Kanto Chemical)
[1,2-Bis(dicyclohexylphosphino)ethane]dicarbonylnickel(0), Ni(dcype)(CO)2 (Kanto Chemical)
3,4-Bis(dicyclohexylphosphino)thiophene, dcypt (Kanto Chemical)
2,2‘-Bis[bis(3,5-dimethylphenyl)phosphino]-1,1’-biphenyl, Xyl-BIPHEP (TCI)
5-Adamantyl-IAA, super-strong auxin (TCI)
Yoshimulactone Green, YLG (TCI)
AMOR, glyco-enhancer of plant fertilization (TCI)
Vinylboronic acid pinacol ester (TCI, Sigma-Aldrich)
Bis[dimethyl(2-pyridyl)silyl]methane (TCI)
2-(Allyldimethylsilyl)pyridine (Sigma-Aldrich)
2-(Dimethylvinylsilyl)pyridine (TCI, Sigma-Aldrich)
2-(Trimethylsilyl)pyridine (TCI, Sigma-Aldrich)
2-(Dimethylsilyl)pyridine (Sigma-Aldrich)

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