Kyohei Ozaki, Wataru Matsuoka, Hideto Ito, Kenichiro Itami
Org. Lett., 2017, 19, 1930–1933. DOI: 10.1021/acs.orglett.7b00684
ヘテロ芳香環APEX
APEX反応は近年我々の研究室で提唱している芳香族化合物の一段階π拡張反応(annulative π-extension)をさします。この反応は芳香環C–H結合を直接変換し、かつひとつ以上の新たな縮環芳香環を一段階で構築する反応です。既存の方法、例えばDiels-Alder反応→酸化反応や、ハロゲン化→カップリング反応のような他段階合成にくらべて、APEX反応は合成段階の少なさ、C–H結合直接変換などの観点から合成化学的に優れた反応と言えますが、その例は未だに少ないです。
今回、尾崎くん(2016年博士)、松岡君(修士一年)らは、ヘテロ芳香環の部位選択的なAPEX反応の開発に成功しました。主にベンゾチオフェン類、またチオフェン、インドール、ベンゾフランといった含ヘテロ芳香環の2位と3位の炭素ー水素結合を直接変換し、よりπ拡張された縮環ヘテロ芳香環を合成する新反応を開発しました。パラジウム触媒、オルトクロラニル、銀塩存在化、π拡張剤としてジベンゾシロールやジベンゾゲルモールを用いると、ベンゾチオフェンが一段階でベンゾフェナントロチオフェンへと変換できます。このようなπ拡張チオフェンは有機エレクトロニクス材料として頻繁に用いられる類の有用化合物であるため、本反応の合成化学的重要性の高さが伺えます。
研究論文としては尾崎博士の最後の論文、修士1年の松岡君(写真中央)としては2報目の論文になります。おめでとう!